現行の耐震基準は、1981年6月に震度6強から7程度の地震でも倒壊を免れる基準として新耐震基準が設けられ、その後、2000年に見直しが行われ(2000年基準)現在に至ります。
木造住宅においては、土台、柱、梁(はり)の接合部を金物での固定が義務付けられるなど、新耐震基準をさらに強化した基準となりましたが、2016年に発生した熊本地震では、旧耐震基準の建物の28.2%が倒壊・崩壊したのに対し、新耐震基準では8.7%、2000年基準では2.2%と、耐震基準によって被害状況に大きな違いが出ました。(出典:国土交通省「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」報告書のポイント)
建物の耐震性は、地震による被害に直結しますので、しっかりと対策することが大事です。この記事では、大地震による被害を少なくする対策について解説します。
避難経路の確認
スムーズに避難を実施するためには、普段から屋外への避難経路を確保しておく必要があります。
本震のあとの繰り返される余震によって耐えきれず、倒壊するケースがあることも踏まえると、屋内から安全に避難できる備えが大切であることが分かります。
この点、構造的に頑丈で、窓や家具が少ない「玄関」は、比較的安全な場所と言えるでしょう。緊急地震速報が鳴る、小さくても揺れを感じた場合、まずは玄関へ避難するようにしましょう。
ポイント!
複数の避難経路を考えておく
地震による変形で、玄関ドアが開かないことも考えられます。外部への避難経路は勝手口やリビング、居室の窓など、複数のルートを想定しましょう。
脱出経路に障害になるものを置かない
通路をふさぐ可能性のある重いものや大きなもの、倒れやすいものは置かないようにし、通路にはみ出しているものは片付けておくことも大切です。
出入口周辺に転倒しやすい家具等をおかない配置も考えましょう。
枕元に懐中電灯、スリッパなどを用意する
就寝時に地震が起き、室内や避難経路に割れた窓ガラスが飛散していることもあります。暗闇の中でも安全に避難できるよう、懐中電灯や厚手のスリッパを枕元などに用意しておきましょう。
非構造物から離れ落下物に注意
揺れる建物内では窓ガラスや倒れやすい家具から離れ、落下物に注意しながら、可能な限り安全な場所に避難しましょう。
震度5強になると物につかまらないと歩くことが困難になり、震度6以上では立っていることすら困難になります。このとき、壁や天井の損壊はなくても、タンスや本棚、食器棚などの重い家具類が移動、転倒することで、けがや下敷きになる可能性があります。
ポイント!
扉の開閉防止器具や引き出しのストッパーを設置
地震の揺れで収納の扉が開き、収納物が散乱するのを防ぐための扉開閉防止器具や引き出しが飛び出さないようストッパーを取り付けておくと安心です。
窓ガラスのほか、家中のガラスに飛散防止フィルムを貼る
窓ガラスだけでなく、収納物の飛び出し、ガラスの飛散を防止するために食器棚のガラス戸などにも、飛散防止フィルムを貼りましょう。両面に貼ることでより飛散防止効果は高まります。
また、食器棚などに収納されているガラス類(ビン類など)がすべり出さないよう防止枠を設けるのも効果的です。
割れやすい、重いものを低い位置に収納
落ちると割れやすい食器類は高い場所ではなく、極力低い位置に収納し、また、重いものを棚の下に収納することで転倒しにくくしましょう。
家具や家電を固定する
家具や家電機器は地震で倒れる可能性があるため、これらを壁や床に固定することで、けがを防止、避難経路の確保につながります。
発火の恐れがある家電やストーブに家具などが転倒すると、火災などの二次火災を引き起こす可能性がありますので、家具や家電をしっかりと固定する対策は必須です。
ポイント!
転倒・落下・移動防止器具を設置する
転倒防止器具で最も効果的な方法は、L字金具を直接ネジで固定する方法です。壁の石膏ボードに取り付けるのではなく、間柱など壁の下地材に取り付けることがポイントです。
ネジ止めが難しい場合は、ポール式(突っ張り棒)とストッパー、ポール式と粘着マットを組み合わせると効果が高くなります。
日常的に動かす家具の移動防止対策
キャスター付き家具やベッドなどは、移動時以外はキャスターにロックをかけ、定位置では着脱式移動防止ベルトで壁につないでおきましょう。
建物を補強する
大きな地震から生命を守るうえで、建物自体が倒壊する、もしくは損壊によって避難できなくなることを避けなければなりません。そのためには建物自体の耐震性を上げる対策がもっとも大切です。
耐震補強とは?
耐震補強は、建物の耐震性を向上させるため、主要構造部である基礎や壁、柱、屋根などを補強することで、大きく3つの方法に分けられます。
基礎の補強・補修
基礎には、建物の重さや地震による外部からの力を地面に伝える役割があり、基礎が弱いと建物が沈下したり、傾いたりする危険性があります。
鉄筋が入っていいない無筋の基礎に鉄筋コンクリートの基礎を足したり(基礎の増し打ち)、基礎のひび割れにエポキシ樹脂などを注入して補修します。
壁や接合部の補強
耐震性の高い下地材や筋交いなどで壁の強度を高めるだけでなく、壁の量を増やし、建物の壁をバランスよく配置することで、建物全体の耐震性を向上させます。
また、建物の構造は、壁だけでなく柱や梁と一体になることで強くなります。金物で接合部を強化し、耐震性を上げます。特に2000年5月までに建築された在来工法の建物に有効です。
屋根の軽量化
屋根の重量が重いほど、地震の揺れの影響を受けやすくなるため、軽量化することで耐震性の向上につながります。
軽量化には軽量瓦、スレート屋根、金属屋根などの屋根材を使用することで、地震による揺れの影響を小さくすることができます。
耐震補強工事の費用は?
耐震補強にかかる費用は、工事内容や築年数、建物の規模などで変わりますが、200万円~程度が一つの目安です。
新耐震基準の建物より旧耐震基準の方が、費用はかさみ、新耐震基準の建物でも築年が古いほど工事費用は高くなる傾向があります。 これは築年数が経過するほど、建物の劣化が進むだけでなく、現行の耐震基準に合わせるために必要となる工事が多くなるためです。
まとめ
地震に対する建物の防災法として、屋内の避難経路を確保する、家具や家電の転倒なども有効ですが、まずは建物の倒壊や損壊の危険性を減らし、地震に強い家にすることが大切です。
- 耐震性がどれくらいかわからない、不安がある
- どこを補強すればよいか分からない
- どれくらいの費用がかかるか知りたい
こういった場合は、耐震診断を受けることをおすすめします。
耐震診断では、専門家がご自宅に伺い、設計図書や建物の使用履歴、改修工事の内容などを確認します。調査結果では、想定される大地震で倒壊するリスクを4段階で判定するほか、診断内容から建物の弱点が見えてきますので、必要な耐震工事を知ることができます。
また、先に紹介した耐震補強工事の費用は、あくまで目安であり、建物の築年数や劣化具合、床面積、希望するリフォーム内容などで異なります。 耐震診断、耐震改修工事の費用について、政府や自治体の補助金や税制の優遇を活用することで軽減できる場合もあり、そういった制度を踏まえた費用の目安も把握することができます。
Written by 吉満博